「2010年は冬から春先にかけて例年になく雨が多く、オリーブの健康状態が心配されましたが、乾いた夏らしい夏に恵まれて実は順調に育ち、非常に良好な状態で収穫を迎えることができました」とフレスコバルディの農園の栽培責任者であるジャンニ・マッジ。葡萄栽培の責任者も兼ねているため、8月の終わりからずっと休む間もないそうですが、葡萄もオリーブも上々の出来とあれば疲れも吹き飛び、自然と笑顔がこぼれます。
収穫に使うのは、モッラと呼ばれる専用の道具。アルミ製のトングの内側にセットされたプラスチックを巻き付けた棒で枝を挟み、しごくようにして実をはずします。弾力性のあるプラスチックによって実を傷つけることなくはずすことができるのです。昔は潮干狩りに使うような熊手を使っていましたが、このモッラのほうが断然効率がいいのだとか。
製造工程その1 洗浄、粉砕、練り合わせ
収穫されたオリーブは、ニポッツァーノ城にほど近いヴィッラ・カンペリーティのフラントイオ(搾油場)に運ばれます。オリーブは収穫した後できるだけ早く搾油作業に移す必要があります。放っておくと発酵が始まり、酸化が進んで品質が低下してしまうのです。収穫後48時間以内に搾油を開始することを自ら義務づけていますが、ヌォヴォ・ラッコルトの場合は、日曜日の午前中のみ休み、あとはフル稼働で非常に短時間に行われています。
ヴィッラ・カンペリーティは16世紀に遡る瀟洒な別荘で、その一部が昔から搾油場として使われてきました。その昔、搾油場は地上2階地下1階という縦型の建物を斜面に接するように造ることが普通でした。重い収穫物を重力を利用することによって上から下へと作業が流れるように仕立てたのです。その名残りでここも、2階に収穫物が到着し、1階で粉砕抽出、地下に貯蔵という形式がとられています。石造りのいかにもトスカーナらしい風情漂う建物の中には近代的な機械が整然と並んでいます。かなりの騒音で、話をするのも大変。
まずは、2階に到着した収穫物から余分な枝や葉を取り除きながら階下の洗浄槽へ送り込みます。実についているホコリなどの汚れを洗い落としたら、粉砕機へ。実と種をつぶしてペースト状にしたら、グラモラトゥーラと呼ばれる練る作業に移ります。これは、ペーストから油分と水分を抜き出しやすくするための大切な行程。練り合わせることによって、油分同士、水分同士が互いに結合し、風味が引き出されます。
また、温度が上がりすぎるとオイルの抽出量は増えますが、ポリフェノールやビタミンAなどが破壊されてしまうのです。かつて、質より量を求めた時代は高い温度下での作業が優先されましたが、ラウデミオのように質を追求するオリーブオイルにとっては温度管理は最も重要な事項の一つです。
グラモラトゥーラを経たペーストは、その前のものと比べると香りが格段に違います。青く清々しい香りとバニラのような濃密な香りがあいまった、実に複雑味ある香しさ。このペーストを今度は遠心分離機にかけ、液体(オイルや水)と個体(実や種)に分けます。滑らかさを失ったぼそぼそとした状態の個体部分はサンサと呼ばれ、さらに機械にかけ、薬品も用いて油分を取り出すことができるのですが、基本的に食用にはなりません。
その第一が、清澄。地下の貯蔵庫で一晩から一週間寝かせることによって、ごく細かい不純物が下に沈み、香り高い上質なオイルが上面に浮かぶのです。貯蔵には昔ながらの素焼きの壷、オルチョを用います。ヴィッラ・カンペリーティのオルチョはみな100年以上使われてきたものばかり。搾油場の騒音も届かない暗く静かな地下室には、500〜600リットル入りの大きなオルチョが20個ほど鎮座しています。生まれたての生き生きとしたオリーブオイルはオルチョの懐でなだめられ落ち着いてゆくのです。
*フレスコバルディ・ラウデミオの初物「ヌォヴォ・ラッコルト」は予約受け付け中です。
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写真/池田匡克 文/池田愛美