道具と食のコラム

道具と食のコラム

Vol.31
トスカーナの四季とフレスコバルディ・ラウデミオ 冬
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春、夏、秋と季節は巡って冬。トスカーナの葡萄畑は、葉もすっかり落ちて静かに眠りについていますが、常緑樹であるオリーブは変わらぬ姿で厳しい寒さに耐えています。そして、農家の人々も寒風吹きすさぶオリーブ畑に出、剪定作業に勤しみます。今年の、あるいは来年の収穫のためにはこの剪定作業は欠かせません。 

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朝9時、気温は3度。建物が密集しているフィレンツェに比べ、ニポッツァーノ城の農園は丘陵地帯にあるために気温は低く、乾いた冷たい風が吹き抜けるお陰で寒さがいっそう身にしみます。しかし、農家の人々は「もう寒さも感じないよ」と言いつつ、オリーブの木に梯子をかけて次々と枝を落としていきます。「この木は少し年をとってきたから、枝を多めに落としておくんだ。今年の収穫は見込めないけれど、来年は見事に蘇るよ」。

一本一本のオリーブの成長ぶりに合わせ、剪定具合を細かく調整。長年の経験を要する作業です。また、こうして個々の木と向き合うことによって、病気の有無も確認できます。まさに、「手塩にかけて」育てるオリーブ、何百年、何千年と受け継がれてきた、地道で丹念な仕事なくして、ほんとうに上質なオリーブオイルは生まれないのです。 

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枝落としの済んだオリーブ畑には、肥料を与えます。オーガニック栽培専用の肥料がメインですが、剪定した枝を燃やした灰も少量撒きます。かつて、どの家にも竈や暖炉があった時代には、薪として大部分が消費され、残りのわずかな枝を燃やして肥料としていた名残だとか。農家代々に受け継がれてきた伝統はどんな小さなことでも意味があり、それが一つでも欠けるとラウデミオはラウデミオでなくなってしまいます。

冬の剪定は翌年以降の収穫を左右する大事な作業
冬の楽しみ、デグスタツィオーネ
晩秋の収穫期の後、絞りたての新オイルを楽しむ一ヶ月ほどの時を経て、もう真冬ではないけれど春の足音まではあと少しという頃、静かに寝かせてあった2010年のエクストラ・ヴァージン・オリーブオイルをテイスティング(デグスタツィオーネ)します。新オイルはいきいきとしたフレッシュさが身上ですが、しばらく寝かせることによって成分が安定し、そのオリーブオイル本来が持つ特徴が際立ってきます。
オリーブオイルは、化学的な成分分析によって大方の性質・特徴が明らかになりますが、食品であるがゆえ、その味わいも重要な要素。人間の味覚(及び嗅覚)による判断は、機械による分析と同等の価値があります。ところで、味覚や嗅覚は人間の脳の記憶に直結するため、「良い匂い」「美味しい」という判断は常日頃の食生活に左右されます。つまり、日頃より多様な味に親しむことによって、味覚はより鋭く、より深い分析ができるようになります。上質なオリーブオイルを毎日、それも香りや味を意識しながら味わっていくと、その品質を見分ける力が備わってくるのです。

では、どのようにテイスティングするのでしょうか。まずは、手のひらに底がすっぽりと収まるような小さめのガラスのコップを用意します。形はチューリップ型、色は濃いブルーであれば理想的。胴体が膨らみ口のすぼまった形は立ち上った香りを集め、ブルーはオイルの色がもたらす錯覚を防ぎます。美しい緑色もオリーブオイルの魅力の一つですが、その美しさに惑わされて正確な判断ができなくなる怖れもあるからです。   

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コップに少量のオリーブオイルを注ぎ、片方の手のひらで底から全体を包み込み、もう片方の手で蓋をして、下になった手を少し傾けてオリーブオイルがガラスの表面全体をなでるようにゆっくりと回します。オリーブオイルの味と香りが最もよく開く25〜28度になるように手のひらで温めるのです。頃合いを見計らって、まずは最初の香りを。この一番最初の香りが脳をダイレクトに刺激するので、それをよく記憶させます。しばらくしてもう一度、今度は先の香りの記憶が正しいかどうか確認の意味で嗅ぎます。

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次に、ほんの少し口に含みます。この時、口の端をわずかに開けて空気をすするように吸い込むと、オリーブオイルは酸素に触れて香りが一層立ち上ります。これを2〜3度繰り返して、香り、そして味わいを確認。この時、甘み、苦み、辛みのほか、滑らかさや柔らかさといった点にも注意するとより深くそのオイルを理解できるでしょう。飲み込んだ後は余韻も確認します。ただ、ワインのテイスティング同様、幾つも試すうちに感覚が鈍化してくるので、時折、塩味のないクラッカーや、トスカーナパンで感覚を戻してあげることが大切です。

上:テイスティングに最適な、濃いブルーのグラス
下:最初の香りをよく記憶させます。
ニポッツァーノ城農園の栽培責任者ジャンニ・マッジは、農園の皆が「優れた鼻」と呼ぶオリーブオイル・テイスティングのマイスター。わずかな違いや普通の人には感じられない細かな欠点などを文字どおり嗅ぎ分けます。ジャンニによると、フレスコバルディ・ラウデミオは、フレッシュな青いオリーブ独特の強い香りと刈ったばかりの野草の香り、口の中では柔らかなトスカーナのアーティチョークに似た香りと、心地よいほろ苦さ、そしてトスカーナのオリーブオイルらしいぴりっとした辛み、さらに非常に長い余韻が楽しめるといいます。
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◆オリーブオイルはなぜ体に良いのか   

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体を作る代表的な3栄養素といえば、炭水化物、たんぱく質、脂質。オリーブオイルは脂質に属す食品ですが、他の脂質食品に比べ、まず、消化が良いと言われています。融点の高い飽和脂肪酸主体である動物性油脂(バターなど)よりはもちろんのこと、他の植物性油脂に比べても消化が良い。なぜならば、オリーブオイルは一価不飽和脂肪酸であるオレイン酸が全体の70~80%を占め、多価不飽和脂肪酸主体の他の植物性油脂とは性格が異なるからです。しかし、オリーブオイル王国であるイタリアでも、軽く、消化に良いという宣伝のおかげで1970年代に綿実油ブームが起こりました。しかし、綿実油には、細胞の生体サイクルに影響を及ぼして炎症を起こし、老化を促す多価不飽和脂肪酸が多く含まれており、対して、一価不飽和脂肪酸であるオレイン酸はこの種の細胞への悪影響は非常に少ないと言われています。ゆえに、体の細胞レベルで若さを保つ為には、抗酸化作用のあるトコフェロール、ポリフェノール、カロテンなどを含む食品と、オリーブオイルを摂取するのが望ましいのです。

代表的なトスカーナ料理 リボッリータ

伝統と歴史が作り出す唯一無二のオリーブオイル「ラウデミオ」   

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1980年代終わりに、ボナ・フレスコバルディ侯爵夫人の提唱で誕生したトスカーナの優れたオリーブオイル生産者組合「ラウデミオ」。DOP(原産地保護呼称)の規定よりもさらに厳しい品質ルールを自ら定め、今やエクストラ・ヴァージン・オリーブオイルの最高峰と言われるブランドです。その立役者である、ボナ侯爵夫人の邸宅をフィレンツェに訪ねました。

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ドゥオモやヴェッキオ宮殿がある町の北側から、アルノ川を渡ったサント・スピリト地区。同名の教会を中心としたこの地区のほぼ中央、サント・スピリト教会と背中合わせの位置にフレスコバルディ宮殿があります。宮殿が建てられたのは1200年代。その後800年もの間、フレスコバルディ家は一度も途絶えることなくこの宮殿の主として君臨してきました。

フレスコバルディ宮殿の庭で語る、ボナ侯爵夫人

ボナ侯爵夫人の住まいは、宮殿の西側のワンフロア。膨大な古書や家族写真、親交のある王族よりいただいた写真が飾られた重厚な雰囲気のサロン、その奥へと進んだ先には光に満ちた明るいサロンがあります。「フレスコの間」とボナ侯爵夫人が呼ぶこの部屋の天井には鮮やかなフレスコ画が描かれ、壁にはご先祖である代々の侯爵の肖像画が並んでいます。また、別の壁にはトスカーナスタイルと呼ばれる独特のフォルムのコンソールが大理石の暖炉の左右に並び、さらにもう一つの壁には夫人が愛好する中国の古磁器のコレクション。時を経たものだけが持つ独特の美しさがこの宮殿のそこかしこを飾っています。
光に満ちた明るいサロン「フレスコの間」
フレスコバルディ家がこの地区で最も力を持った貴族であったことは、サント・スピリト教会との関係からも伺えます。ブルネッレスキの設計で15世紀に建立されたこの教会に、フレスコバルディ家は少なからぬ建設資金と建設用地を寄進しました。宮殿の庭園からは教会の背面を望むことができますが、つまり、これは教会を守る役目も担っていたことの証。また、宮殿の奥に設えられた小部屋からは教会内部を直に見ることができます。宮殿を出ることなくミサに参加できることを許された唯一の貴族なのです。
ボナ侯爵夫人は語ります。
「800年もの長きに渡り、フレスコバルディ家はフィレンツェとトスカーナを愛してきました。その思いを伝えていきたいと願う私たちには、先祖のかたがたが大切にしてきた伝統と文化を守り、より良い形で後世に引き継ぐ義務があります。ラウデミオもその一つ。トスカーナの自然と私たちの伝統を慈しむ気持ちが作り上げた、他にはないオリーブオイルだと信じています。ラウデミオを味わうことによって、歴史と伝統、ひいてはトスカーナの大地を感じていただければ幸いです」。
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写真/池田匡克 文/池田愛美
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夏篇は ⇒コラム ⇒動画

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