7月のとある暑い日、ラウデミオの生まれ故郷、フィレンツェ郊外のニポッツァーノのオリーブ畑では、草刈りが行われていました。夏の間に生い茂る雑草を刈り取って土の養分がオリーブの木に十分行き渡るように、またやがて訪れる収穫期に実を受ける網をスムーズに張り巡らせるための、重要な作業です。
オリーブの実は、この春に芽吹いた1年目の枝につきます。この枝は、ブランケと呼ばれる2年目から5年目までの枝から芽吹いた細い支枝です。春の剪定では、実をつける支枝を持つブランケを残し、ポッローネと呼ばれる実をつけない枝を取り除くことが重要。また、あまり剪定しすぎるとポッローネが発生しやすくなるので、その点にも気をつけなければなりません。剪定は、長年の経験を積んだ職人だけがなし得る非常に大切な作業なのです。
スペインに次ぐオリーブオイル生産量を誇るイタリアは、文字どおりオリーブオイルの国であり、また、その品質ではスペインをしのぐと言われています。しかし、最近はスペインも高品質化に向けての動きは活発で、イタリアのオリーブオイル界は更なる品質向上で高級オリーブオイル市場でのしのぎを削る戦いに挑んでいます。
イタリア全土でのオリーブ作付面積は112万5000ヘクタール余り、オリーブオイルの生産量は3000万トンを超えます。主な生産地域は南部で、作付面積、生産量ともにプーリア州が群を抜いて1位、次いでカラブリア州、シチリア州、カンパーニア州、ラツィオ州と続きます。そしてその次に、トスカーナ州が登場。面積ではイタリア全体の8%、生産量では4.4%とけして多いとは言えないのですが(それだけ南部産が大部分を占めているわけですが)、トスカーナは収量はさほどではないものの高品質のオリーブオイルの産地としてはイタリア有数の州なのです。
DOPやIGPに認定されていれば最高級品質である、ということではありませんが、一定のルールのもとに品質保証が行われているという点では、良否を考えるときの目安となります。しかし、これらのルールに縛られずに独自の発想や方法を用いて、時にはラウデミオのようにより厳しいルールを自らに課してさらなる上質を目指したいと考える生産者もいます。消費者は、DOPやIGPの内容を理解した上で、さらに自分の好みに合ったものを見つけなければなりません。高度に発達したがゆえの、嬉しいような辛いようなオリーブオイル選択時代なのです。
トスカーナの夏は、盆地で蒸し暑いフィレンツェは別として、日中の日射しは強くても朝晩は涼しい風が吹く、気持ちのいい季節。昼間は木陰で、夜は前庭のテラスで食前酒のあとに、のんびりと食事を楽しみます。
食卓にのぼるのは、ゆでたインゲンやじゃがいも、真っ赤に熟したトマトをざくざくと刻んでバジリコと合わせたサラダ。塩をまったく使わないトスカーナパンにトマトや紫たまねぎ、きゅうりを混ぜ合わせた「パンツァネッラ」。すべて味付けはエクストラ・ヴォージン・オリーヴオイルのラウデミオです。野菜の前菜の後は、ボイルした豚肉や鍋で作るローストビーフに、これまたラウデミオをソース代わりにさっと回しかけます。青く、どこか甘い香りも含みながらも、余韻に微かな辛みを感じさせるオリーブオイルは、言うなれば万能調味料なのです。
ラウデミオは魚料理にもお勧め。あっさりとした白身魚やエビ、イカなどとは特に相性がいいのです。ニポッツァーノ城での夏のおもてなしレシピをご紹介しましょう。
前菜
バッカラとじゃがいものタルタル
プリモ・ピアット
エビのリゾット
セコンド・ピアット
サーモンと詰め物をしたトマト
写真/池田匡克 文/池田愛美