道具と食のコラム

道具と食のコラム

Vol.19
トスカーナの四季とフレスコバルディ・ラウデミオ 夏
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 7月のとある暑い日、ラウデミオの生まれ故郷、フィレンツェ郊外のニポッツァーノのオリーブ畑では、草刈りが行われていました。夏の間に生い茂る雑草を刈り取って土の養分がオリーブの木に十分行き渡るように、またやがて訪れる収穫期に実を受ける網をスムーズに張り巡らせるための、重要な作業です。

 2010年の冬から春先にかけては雨が多く、そのため、雑草の繁茂も例年に比べて旺盛で、通常は1度ですむ草刈りを今年はすでに2度行っています。草刈りには、手作業と機械の二つの手段があります。比較的新しい畑は機械作業を考慮した植栽になっていますが、昔ながらの畑はランダムな配置になっているため機械の導入が難しく、鎌を使った手作業に頼るほかはありません。春先に剪定を行っていた熟練の農家の人々が、照りつける太陽の下で黙々と草刈をする姿は、何世紀もの昔と変わらぬトスカーナの夏の風物詩なのです。
熟練の職人による草刈り

たわわに実るフラントイオ
 夏の間、草刈り以外に人の手がオリーブに入ることはありません。もちろん、雨や雹などの自然災害による病気や損傷にはいつも気を配っていますが、今年のように夏らしい夏であればその心配も軽減されるというもの。ラウデミオの主要品種であるフラントイオは順調に生育しており、7月の下旬で直径1cmほどの綺麗なオーバル型の実が枝にびっしりとついています。
 オリーブの実は、この春に芽吹いた1年目の枝につきます。この枝は、ブランケと呼ばれる2年目から5年目までの枝から芽吹いた細い支枝です。春の剪定では、実をつける支枝を持つブランケを残し、ポッローネと呼ばれる実をつけない枝を取り除くことが重要。また、あまり剪定しすぎるとポッローネが発生しやすくなるので、その点にも気をつけなければなりません。剪定は、長年の経験を積んだ職人だけがなし得る非常に大切な作業なのです。
 イタリアで正式に登録されているオリーブ品種は400近く。それぞれの土地や気候に合った品種があり、トスカーナでは、フラントイオ、レッチーノ、モライオーロが代表格です。そこに、その土地ごとの性格を映し出す、ワインで言うところのテロワールを表現する独特の品種が加わることもあります。トータルで見ると、トスカーナのオリーブオイルは深みのある美しい緑色と、清冽な草の香り、バランスのとれた微かな苦みと辛さが特徴。これはフラントイオに負うところが大きいのです。

 ニポッツァーノのオリーブ畑は、約90%がフラントイオ、残りがレッチーノとモライオロです。フラントイオ種は、まず丈夫で病気に強く、粒が少々小さめで形はやや細長、非常にフルーティで複雑な香りを持ち、フレッシュさを身上とするその特徴をより良く引き出すために、緑色から暗紫色に変わりかけた完熟一歩手前の状態で収穫します。一方、レッチーノは粒が丸く、実が熟す途中で色づき始め、収穫期には完全に黒色になります。また、枝にしっかりとついているため、収穫に時間がかかるという手間もかかる品種です。しかし、まろやかで優しい味わいのレッチーノがわずかに加わることによってなんともいえない厚みと余韻をもたらしてくれるのです。
草刈りを終えたオリーブ畑

オリーブ栽培について語るフレスコバルディ社のフェデリコ・ジョヴァネッティ氏
 ● イタリアのオリーブオイルについての豆知識  

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 スペインに次ぐオリーブオイル生産量を誇るイタリアは、文字どおりオリーブオイルの国であり、また、その品質ではスペインをしのぐと言われています。しかし、最近はスペインも高品質化に向けての動きは活発で、イタリアのオリーブオイル界は更なる品質向上で高級オリーブオイル市場でのしのぎを削る戦いに挑んでいます。
 イタリア全土でのオリーブ作付面積は112万5000ヘクタール余り、オリーブオイルの生産量は3000万トンを超えます。主な生産地域は南部で、作付面積、生産量ともにプーリア州が群を抜いて1位、次いでカラブリア州、シチリア州、カンパーニア州、ラツィオ州と続きます。そしてその次に、トスカーナ州が登場。面積ではイタリア全体の8%、生産量では4.4%とけして多いとは言えないのですが(それだけ南部産が大部分を占めているわけですが)、トスカーナは収量はさほどではないものの高品質のオリーブオイルの産地としてはイタリア有数の州なのです。

 DOP(Denominazione Origine Protetta 原産地保護呼称)は、原料の生産から製造までが一貫して登録された地域内で予め定められた方法に従って行われた食品について与えられる品質保証の認定ですが、イタリアでDOPに認定されているオリーブオイルは40種類、さらに3種類が、生産から製造までの行程の一部が登録された地域内で定められた方法によって行われた食品に与えられるIGP(Indicazione Geografica Protetta 地域保護表示)を与えられています。
 DOPやIGPに認定されていれば最高級品質である、ということではありませんが、一定のルールのもとに品質保証が行われているという点では、良否を考えるときの目安となります。しかし、これらのルールに縛られずに独自の発想や方法を用いて、時にはラウデミオのようにより厳しいルールを自らに課してさらなる上質を目指したいと考える生産者もいます。消費者は、DOPやIGPの内容を理解した上で、さらに自分の好みに合ったものを見つけなければなりません。高度に発達したがゆえの、嬉しいような辛いようなオリーブオイル選択時代なのです。

● 夏のトスカーナの食卓  

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 トスカーナの夏は、盆地で蒸し暑いフィレンツェは別として、日中の日射しは強くても朝晩は涼しい風が吹く、気持ちのいい季節。昼間は木陰で、夜は前庭のテラスで食前酒のあとに、のんびりと食事を楽しみます。
 食卓にのぼるのは、ゆでたインゲンやじゃがいも、真っ赤に熟したトマトをざくざくと刻んでバジリコと合わせたサラダ。塩をまったく使わないトスカーナパンにトマトや紫たまねぎ、きゅうりを混ぜ合わせた「パンツァネッラ」。すべて味付けはエクストラ・ヴォージン・オリーヴオイルのラウデミオです。野菜の前菜の後は、ボイルした豚肉や鍋で作るローストビーフに、これまたラウデミオをソース代わりにさっと回しかけます。青く、どこか甘い香りも含みながらも、余韻に微かな辛みを感じさせるオリーブオイルは、言うなれば万能調味料なのです。
 ラウデミオは魚料理にもお勧め。あっさりとした白身魚やエビ、イカなどとは特に相性がいいのです。ニポッツァーノ城での夏のおもてなしレシピをご紹介しましょう。
前菜
バッカラとじゃがいものタルタル
プリモ・ピアット
エビのリゾット
セコンド・ピアット
サーモンと詰め物をしたトマト

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写真/池田匡克 文/池田愛美

上:テラスでいただく昼食のテーブル
下:エビのリゾット
トスカーナの四季とフレスコバルディ・ラウデミオの動画を Youtubeで公開中
春篇は ⇒コラム ⇒動画
秋篇は ⇒コラム ⇒動画
冬篇は ⇒コラム ⇒動画