どこでオリーブが生まれ、どのようにしてオリーブオイルへと生まれ変わり、それをどのように味わうのかをご覧いただくことによって、ラウデミオがどうしてラウデミオと呼ばれるに値するのかがおわかりいただけるでしょう。ゆっくりと成長し、やがて貴く輝く緑の滴となるさまを四季を通じてお伝えしてまいります。
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かような有力貴族で、現在に至るまでその伝統と格式を持ち長らえているフィレンツェ貴族はごくわずか数家しかなく、フレスコバルディ家はそうした数少ないなかでも最も往時の威力を維持している貴族です。30代目を数えるフレスコバルディ家の現在の家業はワインの生産を中心とする農園経営。しかしながら、ルネッサンス以前より関係の深かったイギリス王家とは今も親しい間柄で、チャールズ皇太子がプライベートでしばしばトスカーナを訪れる時は、フレスコバルディ家所有のヴィッラに滞在されるとか。
フレスコバルディ家は、トスカーナに9つの農園を有し、総面積は4000ha、うちブドウ畑が1000haを占めています。もっとも優れたワインを生み出すのがフィレンツェの北東に位置するニポッツァーノ城、ポミーノ城、そしてシエナの南のモンタルチーノ地区にあるジョコンド城の各農園。そして、それぞれブドウとは別にオリーブの畑も作られており、ワインに比べれば規模は小さくなりますが、それだけに手間暇をかけて丹精し、比類なく上質なエクストラ・ヴァージン・オリーブオイルであると自負しています。
「ラウデミオは、オリーブオイルを愛する人々により優れたクォリティを保証したいという思いから生まれました」と語るのは、フレスコバルディ侯爵夫人であるボナさん。当主である夫、ヴィットリオ氏とともにフィレンツェ周辺で良質なオリーブオイルを手がける生産者たちに声をかけ、志を同じくする20社以上を募って生産者組合「リ・オリヴァンティ」を結成しました。
「1980年代、オリーブオイルの品質は今ほどに問われることはなく、市場には安く低品質で、出自も不明瞭なオリーブオイルが溢れていました。私は、丹誠込めたオリーブオイルだけが持つ本当の美味しさをもっと知ってもらう必要があると常々感じていたのです。そこで、生産者組合を立ち上げ、「ラウデミオ」という統一の商品名のもとに明確な性格を備えたトスカーナのオリーブオイルを消費者の皆さんにお届けすることにしたのです。
「父と母が中心となって立ち上げたラウデミオは、オリーブオイルの世界に新風を吹き込み、新時代を築き上げました」と語るのは、ボナ・フレスコバルディ侯爵夫人の娘のディアナさん。4人兄妹の末っ子ですが、ワインを担当する長兄とともに家業に従事し、母から引き継いだオリーブオイル部門の責任者を務め、「リ・オリヴァンティ」の組合長をも引き受けています。
「トスカーナ中央部で作られる香り高く風味豊かなオリーブオイルは、オート・キュイジーヌ(高度に洗練された料理)になくてはならない存在となると同時に、健康的な食生活に関心の高い人々に広く支持されるようになりました。優れたオリーブオイルとして数々の賞も獲得し、“オリーブオイル界のフェラーリ”と評されるまでになっています」。
20年前、20以上の生産者が一致団結して生み出した「ラウデミオ」は、言い換えれば伝統を大切に思う友人たちとの協調のシンボル。ディアナさんはこう語っています。「一人よりも二人、多くの人々が集まればその力はより強く、より高いところを目指すことができます。今後はますます品質向上に努め、そしてもっとラウデミオの美味しい食べ方を知っていただきたいと思っています」。
フィレンツェから北東に向かい、車でおよそ40分ほど。アペニン山脈に連なる小高い丘がどこまでも続く丘陵地、キャンティ・ルフィナ地区にニポッツァーノ城がそびえます。1035年頃に建てられた堅牢な石造りの城は、1400年代には領主の館となり、周辺農家を束ねる中心的存在となりました。
栽培するのはもちろんブドウとオリーブ。標高は200〜450m、オリーブは主に標高250m前後の斜面に植えられています。冬には雪が降ることもしばしばですが、夏の日射しは非常に強く、四季の移り変わりは実に明確。そして何よりも恵まれていると言われるのが、常に吹き渡る清涼な風です。不要な湿度を運び去り、植物の病気を防ぐ天与の気候なのです。
「冬の終わりに行う剪定は実は一番重要な仕事」というジャンニ氏。実をつける枝の内側にある小枝や花芽をつけていない枝を切り払って、花芽に十分な日光を確保し、風通しをよくするのが目的です。この剪定が、来る冬の初めの収穫の出来を左右する要の作業。どの枝を残し、どの枝を切り落とすかを見定めるのは経験を要する仕事であり、誰にでもできるわけではありません。長年の経験を持つ熟練の職人にのみ任されているのです。
無言で剪定作業をする職人たち。その手さばきは素早く、一瞬で残すべきか切るべきかを見定めていることがわかります。剪定が終わったオリーブの木は「壷型」と呼ばれる形に整えられています。地面から生えた太い幹から2〜3本の主要な枝に分かれ、さらにそれぞれの枝から細い枝が伸び、全体を眺めると上部が開いた壷のような形に見えます。この形状はオリーブの実の付きを良くし、収穫もしやすいという利点があるのです。
切り落とした枝は病気を持っている場合もあるので、ひとまとめにして燃やします。パチパチと枝が燃える音、小鳥のさえずり、穏やかに吹き過ぎる風。下草もきれいに刈り込んだオリーブの木はこざっぱりとした春の装いで、来るべき夏を心待ちにしているのでしょう。
写真/池田匡克 文/池田愛美